気づきへの旅、世界的な注目を集める四国遍路へ

  • 第31番札所 五台山 金色院 竹林寺 Photo: Mark Groenewold

第31番札所 五台山 金色院 竹林寺 Photo: Mark Groenewold

香川県高松市在住で、外国人の視点から四国の魅力を伝えるウェブサイト『Come to Shikoku』を運営しているマーク・グルネウォルドは、四国遍路に関する本『Your Pilgrimage in Japan』も出版している。そんな彼が今回、四国遍路の魅力について紹介する。

※本記事は、高松市在住のカナダ人の執筆者であるマーク・グルネウォルド氏が、英語圏の訪日外国人観光客向けに四国遍路を紹介する記事を和訳したものです。

新時代の巡礼

画像左から:第75番札所 五岳山 誕生院 善通寺 Photo: Mark Groenewold、第66番札所 巨鼇山 千手院 雲辺寺 Photo: Mark Groenewold

精神への光と啓示を模索し、世界各地の巡礼の旅を通じ、外の世界へ新たな一歩を踏み出すことは、古代より人々の慣習であり、何世紀にもわたり人類の文明の中で行われてきた。

フランス、イタリア、トルコ、スリランカ、ポルトガル、スペイン、チベット、インドなど、巡礼への旅は、宗教的信心や習慣、文化に根ざしていることが多いが、実はそれ以上に、広い知識を求め、自分の人生が他者と交わることで、真に深い自己認識を得るといった期待や希望を抱えてきたという が本来の趣であったのではないかと思われる。

近年、四国遍路は、1,200年の歴史と禅のような回遊性で、世界中の旅行者から注目され関心が高まっている。その流れのなか 、ロンリープラネット社が毎年発行している「Best in Travel 2022」の地域部門で、日本から 四国が世界第6位に選ばれた。長い間忘れ去られ、見過ごされてきたこの地域に、ロンリープラネットの20億人以上の読者の目がまた新たに向けられることとなったのである。

ロンリープラネットは、「四国遍路には人間の好奇心と、混迷する世界の中で答えを求める人間の真の表現がある」と述べている 。

四国遍路を歩く巡礼者は、さまざまな理由で巡礼に向かう。個人的な癒しのために歩くこともあれば、 愛する人を想い歩くことも。また、家庭内の困難や悲劇によって乱れた生活をリセットし、心を整え再スタートさせるために歩くこともある。未曾有の新型コロナウイルス感染症の世界的な流行後、四国遍路が多くの人が求める癒しの「薬」になるかもしれない。

マインドフルネスとしての巡礼

画像左から:第44番札所 菅生山 大覚院 大寶寺 Photo: Mark Groenewold、竹林寺の参道(四国霊場第31番札所)

四国では巡礼者を「お遍路さん」と呼ぶ。お遍路さんは、通常各々何かしら目的を持って旅をする。その目的は、時には不明確であったり、時には学術的であったり、単に自然の中を散歩することだけの時もあるが、四国遍路の旅で、健康に良い結果が得られたり、心が晴れやかになったり、社会的交流が豊かになった実感を抱くことも多い。

お遍路の旅は、「学び」「成長」「癒し」という個人的な内発的期待を伴う。しかし、四国遍路では、精神性を整える西洋的なセラピストやカウンセラーを伴うことはない。ただし、歴史、建築、人類学、文学、日本哲学に精通した経験豊かな「先達」と呼ばれるガイドに出会う機会がある。彼らは臨床心理士ではないが、プロフェッショナル四国遍路ガイドとしてお遍路さんを導く。

過度に刺激され、疲れた心を癒す、あるいはデトックスする方法は、内面から湧き出でるものでなければならないだろう。人間の心の問題や弱さを臨床的に特定し、改善するメンタルセラピーの時代 以前に、四国遍路の中にはすでに精神的、霊的な回復の伝統が長く存在していたのかもしれない。つまり、お遍路さんは、プロの心理カウンセラーに助けを求めるのではなく、「巡礼者-汝自身を癒せ」という格言を守りながら歩き、自己認識を深めていく必要がある。

この「癒し」と「成長」には、フレームワークも必要だ。私たちがお寺を訪れるとき、一連の儀式的な行動が強く推奨される。手を洗い清め、鐘を鳴らし、納札を奉納する。ロウソクとお香に火をつけ、最後に読経する。そして心から深くお辞儀をし、一連の儀式を終える。お寺に詣で参拝するまでの儀式化によって、仏に向かう心の準備がなされる。それは、乱雑性と混沌を取り除き、そこから始まる読経のために心を準備させる行動が体系化されたものである。

ルート上のどの寺院を訪れても、その中心にあるのは「般若心経」の唱和である。般若心経には深い意味があり、哲学的である。「すべては無である」と信じ、人間の感覚を疑い、存在の「空」を瞑想すべきであり、エゴのデトックスを意味するとしている。

宮崎建樹氏の著書『空海の史跡 を訪ねて』には、四国を巡礼する際の「戒め」「掟」が記されており、英語読者には大変参考になる。戒律は全部で10項目。「殺さない」「盗まない」「姦淫しない」「自慢しない」「無礼を働かない」「嘘をつかない」「偽善者にならない」「貪欲にならない」「怒らない」「他人を恨まない」である(空海は、平安時代初期の僧で、諡号は弘法大師。真言宗の開祖)。

そして、読者は心身の準備を整え、旅に出るときには4つの心得を忘れてはならないとも言われる。空海の道を行く者は皆、「弘法大師(空海)とともに同行二人となること」「旅先で苦しんでも不平を言わず前向きに生きること」「妬み、憎しみ、欲など世の中を悪くする心を積極的に滅すること」「すべての人が社会に貢献する意識を持つこと」だとされる。

「デトックス」という現代的な言葉を使わなくても、四国遍路は何世紀にもわたって、人の心から毒を抜き取る修行を続けてきたのである。それは、人生を変えたいと願う世界中の多くの巡礼者の心に響き、そして必要とされている「救済策」ではないだろうか。

ここだけは行きたいスポット

画像左から:第1番札所 竺和山 一乗院 霊山寺 Photo: Mark Groenewold、第51番札所 熊野山 虚空蔵院 石手寺 Photo: Mark Groenewold、第44番札所 菅生山 大覚院 大寶寺 Photo: Mark Groenewold、第6番札所 温泉山 瑠璃光院 安楽寺 Photo: Mark Groenewold

巡礼の旅は非常に長く、 全行程を歩くには、6週間から8週間ほどかかる 。一度の旅ですべてを見るには1〜2カ月の時間が必要で、訪日外国人旅行者には、まず四国内の限られた場所を訪れ、遍路の全体像とその精神性を理解することが賢明であろう。以下は、まったくの「素人お遍路」の私見であること を心に留めて頂きたいが、私が美しい、意味がある、インパクトがあると感じたお寺や場所を紹介したい。

徳島なら、1番札所。霊山寺を起点とするのがよいだろう。さらに進むと、感動的な伝説と非常に美しい境内を持つ10番札所・切幡寺もおすすめで、 その森も 素晴らしい。宿泊施設としては、6番札所の安楽寺があり、寺に一泊するのも素晴らしい体験となる。

高知では、31番札所。竹林寺はとても 美しく、牧野植物園のすぐ近くにある。36番札所の青龍寺は、緑が深く印象的なお寺で、仏教の怒りを表す不動明王を見ることができる名所の一つ。旅行者は、日本の生活やおもてなしの心を感じるために、地元の旅館や、ビジネスホテルに泊まることをお勧めしたい。

北上していくと、44番札所。大寶寺は、ヒノキの木々の間を歩くと非常に美しく、別世界に誘われたような気分になる。さらに進むと、愛媛県松山市道後に近い51番札所・石手寺。松山市道後すぐ近く の石手寺では、衛門三郎の伝説と対面することができる。懺悔、再チャレンジ、自己実現というテーマが浮かび上がる。道後での滞在に、心と体の癒しの場として、大和屋本店をぜひ お勧めしたい。

巡礼の終盤75番札所への参拝。空海の生誕地である香川県にある善通寺は、ぜひとも訪れたい場所である。
宿坊と呼ばれる宿泊施設もあり、本堂での朝のお勤めにも立ち会うことができる。66番札所・雲辺寺も素晴らしい。四国遍路全行程の最高峰であり、四国浄土がいかに広大であるかを知ることができる。

四国遍路が終わると、また巡り、始まりに戻る。しかし、次回の巡礼を考えるとき、1から新たに繰り返すといったものではない。むしろ階層を深めていく。そして、もう一度廻ることで、感謝、理解、自己認識、そして最も重要な感謝がより深まるのだ。